環境DNA調査の結果をもとに伊佐津川水系における魚類群集の季節的・空間的なパターンを調べた論文が公開されました。Seasonal changes in the structure of river fish communities in temperate Japan depicted using quantitative eDNA metabarcoding【過去の調査の様子はこちら】2023年春季2023年秋季2024年冬季2024年春季2024年夏季春夏秋冬の調査の結果、合わせて70種を超える魚類の環境DNAが検出されました。この中には季節特有に検出された回遊魚(例:春に遡上するシロウオ)や、絶滅の危惧される純淡水魚(例:ナガレホトケドジョウ)など、様々な魚種が含まれます。基本的には下流側ほど検出される種数が多く、どの季節でも上・中・下流それぞれで明確に異なる群集構造が形成されていることがわかりました。ただし、夏だけは上流側でも下流側に引けを取らないほど検出種数が多いなど、季節ごとに特有なパターンも見られました。春先に海から遡上してくるアユは夏になるにつれて上流へと移動していくことはよく知られますが、回遊魚だけでなく様々な純淡水魚においても夏に上流で検出されやすい傾向が確認されました。魚たちが生活史を全うするために、下流と上流との間が移動可能であることの重要性が示唆される結果と言えます。またこうした群集構造や種多様性の季節的・空間的なパターンは、伊佐津川本流と支流の池内川とでほぼ一致していることも明らかになりました。(写真:夏のアユの群れ 2025年8月1日 益田玲爾撮影)そんな伊佐津川水系に生息する魚類にも、この夏の記録的な猛暑・少雨は大きな影響を与えているようです。以下の写真は、上が2024年8月6日、下が2025年8月1日に河川内の同じ場所で撮影されたものです。今年の夏の写真を見ると、川の流れが完全に途切れてしまっていることがわかると思います。これは「瀬切れ」と言われ、特に降水量の少ない時期には珍しくない現象ですが、今年は伊佐津川水系の瀬切れが例年以上に広範囲に、また長期間続いているようです。これにより生物の河川内移動は大幅に制限され、淵の無いような区間では逃げ場が完全に失われてしまいます。実際にこの夏の調査では、アユの斃死個体を多く目にしました(下写真)。このような自然現象による撹乱や、人為的影響に対する河川生物の反応を水系全体で評価していくためにも、引き続き調査を継続していくことが重要です。今回発表された研究成果を足掛かりとして、今後は森里海のつながりや生物の移動によりフォーカスした研究も進めたいと考えています。